ハプログループO-M122 (Y染色体)(ハプログループO-M122 (Yせんしょくたい)、系統名称ハプログループO2とは、分子人類学で用いられる、人類のY染色体ハプログループの分類のうち、ハプログループOのサブクレード(細分岐)の一つで、「M122」の子孫の系統である。2015年11月にISOGG系統樹が改訂される前はハプログループO3と呼ばれていた。

分布

ハプログループO2-M122はシナ・チベット語族と関連し、一部下位枝はミャオ・ヤオ語族、オーストロネシア語族とも関連する。漢民族(最大65.7%)やビルマ系民族(最大86.7%)、朝鮮人(最大50.9%)に高頻度であり、東南アジア人でも中頻度で見られる。日本でも約20%の男性に観察される。モン・ミエン語族に関連するO-M7は大渓文化の遺骨から高頻度に観察されている。

中国

上海市出身の漢族男性を対象とした研究では、1219人中576人(47.25%)がハプログループO2-M122に属すという結果が得られた。1219人中689人が浦東出身の漢族男性で、残りの1219人中530人が崇明島出身の漢族男性である。その内訳は下記の通りである:

  • O2-M122 576/1219 (47.25%)
    • O2a1-KL1 225/1219 (18.46%)
    • O2a2-P201 332/1219 (27.24%)
      • O2a2*(O2a2a xP164) 57/1219 ( 4.68%)
        • O2a2a1a2-M7 38/1219 ( 3.12%)
        • O2a2a*(xM7, P164) 19/1219 ( 1.56%)
      • O2a2b-P164 275/1219 (22.56%)
        • O2a2b1a1-M117 125/1219 (10.25%)
        • O2a2b*(xM117) 150/1219 (12.31%)
    • O2*(xKL1, P201) 19/1219 ( 1.56%)

河北省邯鄲市出身の漢族男性を対象とした研究では、730人中435人(59.59%)がハプログループO2-M122に属すという結果が得られ、特にO-F46 (157/730 = 21.51%)とO-F8 (131/730 = 17.95%)が多く観察された。

ハプログループO2に重大に関係ある中国人の調査方法では、漢民族と55の少数民族・国土が広大であるためより詳細に調査する必要性があり各民族・各地域に細かく集計した上でハプログループO2のサブグループを以下の通りに分けて各民族及び各地域によって詳細に調査される。

  • O2a1*(L127.1,KL1/L465 ,IMS-JST002611-)
  • O2a1b(IMS-JST002611 )、O2a2a*(M188 ,M7-)(漢民族に関係ある)
  • O2a2a1a2(M7 )(ミャオ・ヤオ語族に関係ある)
  • O2a2b*(P164 ,M134-)(オーストロネシア語族関係ある)
  • O2a2b1*(M134 ,M117-)(シナ語派に関係ある)
  • O2a2b1a1(M117 )(チベット・ビルマ語派に関係ある)
  • O2b(F742 )(長江文明に関係ある)

漢民族のO2系統の詳細0.1%以上は以下の通りであった。

  • O2a1a(F1876) 2.6%
  • O2a1b(IMS-JST002611) 15.0%
  • O2a2a(M188) 4.8%
  • O2a2b1a1(M117) 16.7%
  • O2a2b1a2(F114) 12.1%
  • O2a2b2(F3223) 3.1%
  • O2b(F742) 1.3%

古人骨では、龍山文化の陶寺遺跡(2500BC~1900BC)から100%の頻度で発見されている。

日本

日本国内の分布はハプログループC2と同様、地域間の差異が結構大きく、少ない所では15%未満(3/31 = 9.7% 福岡県、11/102 = 10.8% 福岡市成人男性、5/37 = 13.5% 大分県、7/50 = 14.0% 茨城県、20/142 = 14.1% 宮崎県延岡市、20/137 = 14.6% 関東地方)、多い所では25%以上(33/129 = 25.6% 佐賀県立致遠館高等学校、15/57 = 26.3% 徳島県、22/79 = 27.8% 青森県立八戸北高等学校及び青森県立三本木高等学校、13/44 = 29.5% 山口県)の男性に観察されている。

崎谷満はO2-M122系統の一部は縄文時代に日本にミレット農耕をもたらしたが、その大部分は弥生時代以降の中国大陸及び朝鮮半島からの流入であろうとしている。

日本国内でのサブクレード別の割合は以下の通りである。

  • O2(M122) (44/263) 16.7%
    • O2a1b(IMS-JST002611) (10/263) 3.8%
    • O2a2(P201,IMS-JST021354) (31/263) 11.8%
      • O2a2*(xM159, M7, M134) (11/263) 4.2%
      • O2a2b1(M134) (20/263) 7.6%
        • O2a2b1a1(M117) (11/263) 4.2%
        • O2a2b1*(xM117) (9/263) 3.4%
    • O2*(xO2a1b, O2a2, M121, M164) (3/263) 1.1%

O2a2*-P201(xO2a2a1a1a-M159, O2a2a1a2-M7, O2a2b1-M134)はオーストロネシア語族に関連する可能性がある。11人のうち、系統樹上の位置が詳細に解明されている1人の日本人男性(山口県出身のYGU234)のサブクレードは、O2a2b2a1b1-IMS-JST008425p6で、最も近い共通祖先は約10,800年前、主に中国東北部即ち旧満州、華北及び山東地区に分布し、中国全国の男性人口の約0.36%を占める。民族別では満州族に比較的多い(21/2938 = 0.71%)。

佐藤ら(2014)ではO-P201(xM134)が日本人の3.8%(2390人中90人、最多札幌市成人男性206人中12人=5.8%、最少福岡市成人男性102人中2人=2.0%)に見られる。現代日本人にはオーストロネシア語族と関連が指摘されているO2a2b2-F3237に属す者はほとんどおらず、O-P201(xM134)に属す日本人の大半がO2a2a1a1b-MF18110/FGC50590/FGC50625に属している。そのサブクレードには日本及び韓国で比較的多く観察されるO-MF114497/O-SK1702と、中国(の主に東部及び北部)及び韓国、タイ、カザフスタン(ドンガン人)で稀に観察されるO-MF14256があるが、両者の間には大きな隔たりがあり、その最も近い共通祖先は今より約12,750年前或いは12,173(99% CI 16,073 ↔ 8,996)年前に遡る。O2a2a1a1b-MF18110/FGC50625は、O-M159が最も近縁で、これは現代の中国南部で割と頻繁に観察され、中国全国男性人口の約0.80%を占める。両者の親グループであるO-CTS201の最も近い共通祖先は約16,070年前、更に、O-CTS201とO-M7の親グループであるO-CTS445の最も近い共通祖先は約16,090年前である。

古墳人にみられるO2(M122)系統Y染色体ハプログループは東アジア全体で見られ古人骨ゲノムデータの主成分分析では現代日本人と大陸集団との中間に位置し、縄文人や弥生人よりも現代日本人との遺伝的親和性が高い。

日本国内における頻度

現代日本では平均して約20%の男性に観察される。

Tajima et al. (2004)及びHammer et al. (2006)(両者は一部同じサンプルを使用している)のデータによれば、西日本で頻度が高い。

  • 沖縄: 7/45 = 15.6%
  • 九州: 25/104 = 24.0%
  • 徳島: 15/70 = 21.4%
  • 静岡: 12/61 = 19.7%
  • 青森: 4/26 = 15.4%

しかし、より大きな数のサンプルを集計したSato et al. (2014)によれば、地域による統計的有意性のある頻度の差が無く、一番頻度の高い長崎の学生と一番頻度の低い福岡の成人男性は両方とも九州の集団である。

  • 長崎 (学生): 71/300 = 23.7%
  • 大阪 (成人男性): 54/241 = 22.4%
  • 金沢 (成人男性): 51/232 = 22.0%
  • 札幌 (学生): 61/302 = 20.2%
  • 札幌 (成人男性): 41/206 = 19.9%
  • 全国合計: 470/2390 = 19.7%
  • 金沢 (学生): 55/298 = 18.5%
  • 徳島 (学生): 69/388 = 17.8%
  • 川崎 (学生): 57/321 = 17.8%
  • 福岡 (成人男性): 11/102 = 10.8%

逆に、Nonaka et al. (2007)のデータによれば、日本全国に於ける頻度は44/263 = 16.7%とやや低いが、Tajima et al. (2004)、Hammer et al. (2006)のデータと同様に、西日本でやや濃い分布を示している。

  • 関東 (東京 n=51, 千葉 n=45, 神奈川 n=14, 埼玉 n=13, 茨城 n=5, 栃木 n=5, 群馬 n=4): 20/137 = 14.6%
  • 沖縄: 18/87 = 20.7%(Y-STRにより推定)
  • 名古屋: 45/207 = 21.7%(Y-STRにより推定)
  • 西日本 (東海 n=24, 中国 n=16, 近畿 n=15, 九州 n=13, 長野 n=11, 四国 n=9, 北陸 n=7, 山梨 n=2): 23/97 = 23.7%

現代宮崎県出身男性1702名を対象にした研究では、9.52%(162/1702)がO-M122(xM134)に、9.05%(154/1702)がO-M134に、合計18.57%(316/1702)がO2-M122に属すという、全国平均と大差の無い結果が得られたが、父親または父方の祖父の代まで宮崎県出身だという者に対象を絞り、更に出身市町村に基づいて県北地域(延岡市・日向市・門川町・諸塚村・椎葉村・美郷町・高千穂町・日之影町・五ヶ瀬町)、県央地域 (宮崎市・西都市・国富町・綾町・高鍋町・新富町・西米良村・木城町・川南町・都農町)、県西地域(都城市・小林市・えびの市・三股町・高原町)、県南地域(日南市・串間市)に分けてみると、O2-M122が県北地域で13.8%(48/349)、県西地域で17.2%(50/291)、県央地域で21.3%(104/488)、県南地域で22.0%(31/141)という結果になり、数世代前の宮崎県に於いては、南東や海へ行くに連れてO2-M122の分布が濃くなり、北西や山へ行くに連れてO2-M122の分布が薄くなる傾向があった事を示唆している。

Katoh et al. (2005)が関東地方にて採集したサンプルについては、16.2% (19/117)がO-M122に属している。 1000人ゲノムプロジェクトによって東京都で採集されたサンプルJPT("Japanese in Tokyo, Japan")については、17.9% (10/56)がO-M122に属しているとPoznik et al. (2016)が述べている。

サブグループ

ハプログループO系統の分岐については2020年4月16日改訂のISOGGの系統樹(ver.15.58)による。

  • O2(旧O3)(M122)[TMRCA 29100年前]:中国北部に特に多い。シナ・チベット語族、モン・ミエン語族との関連が想定される。
    • O2a(M324)[TMRCA 23800年前]
      • O2a1(L127.1)
        • O2a1a(F1876/Page127)[TMRCA 12700年前]
        • O2a1b(IMS-JST002611)[TMRCA 12900年前]
      • O2a2(IMS-JS021352/P201)[TMRCA 23000年前]
        • O2a2a(M188)[TMRCA 18600年前]
        • O2a2b(P164)[TMRCA 19100年前]
          • O2a2b1(M134)[TMRCA 17400年前]
            • O2a2b1a1(M117,Page23)[TMRCA 12400年前]
            • O2a2b1a2(F122,Y20)[TMRCA 14400年前]
          • O2a2b2(AM08122/F3223/F3237)[TMRCA 14300年前]
    • O2b(F742)[TMRCA 24900年前]

一塩基多型分岐図

脚注


Y染色体O1b2a1a系統 有名人のハプログループ

Y染色体ハプログループの分布 (東アジア) Wikiwand

Annex 12k of Copy WhatShouldWeDoNow?

Y染色体O1a系統 有名人のハプログループ

Y染色体O1b2系統 有名人のハプログループ